36協定(時間外・休日労働に関する労使協定)の労働者代表を選出する際、意外と多いのが「形だけの選出」です。しかし、この手続きを間違えると、36協定そのものが無効になり、最悪の場合は刑事罰の対象になるリスクがあります。
今回は、実務担当者が絶対に守るべき「正しい選出方法」と、不備があった際のリスクを整理します。
疑問:適当に選んだ労働者代表、何が問題なの?
忙しい業務の中で、ついつい以下のような「簡略化」をしていませんか?
- 「今年も去年と同じ人でいいよね」と勝手に名前を書く
- 親睦会の会長や、社内のレクリエーション担当をそのまま代表にする
- 総務部長や課長など、会社側が「扱いやすい人」を指名する
- 従業員に何も知らせず、代表者の印鑑だけ借りる
こうした「便宜上の選出」は、労働基準監督署の調査が入った際に真っ先に指摘されるポイントです。
結論:選出手続きに不備があると、36協定は「無効」になります
結論から申し上げます。
正しく選出されていない労働者代表と結んだ36協定は、法的に無効です。協定が無効ということは、「残業をさせる根拠がない」状態となり、たとえ1分でも残業をさせれば労働基準法違反(32条違反)として処罰の対象になります。
「知らなかった」「悪気はなかった」では済まされないのが、この選出手続きの怖いところです。
根拠:労働基準法施行規則第6条の2(選出要件)
なぜここまで厳しく判断されるのでしょうか。
法律(施行規則)では、労働者代表の要件として以下の2点を明確に定めています。
- 管理監督者(役職者など)ではないこと
- 「36協定を結ぶための代表者を選ぶ」という目的を明らかにした上で、投票や挙手などの民主的な手続きで選ばれていること
過去の裁判例(トーコロ事件など)でも、「会社が一方的に指名した代表者」による協定は無効であると断じられています。労働者の自由な意思が反映されていない代表者は、法律上の代表とは認められないのです。


実務ではどうするか:失敗しないための3ステップ
適法な36協定を維持するために、現場で踏むべき手順は以下の通りです。
1. 「管理職ではない人」から候補を募る
まずは、経営者と一体的な立場にない一般社員から候補者を出します。会社側が「この人にして」と誘導するのは避け、あくまで自発的な立候補や推薦を募ります。
2. 選出の「目的」を掲示して信任を得る
「来年度の36協定を締結するための代表者を選びます」という目的を社内掲示板やチャットで明示します。
- 選出方法: 投票、挙手、持ち回り決議(メールやチャットでの「異議なし」回答)など、労働者の過半数がその人を支持していることが客観的にわかる方法を選びます。
3. 選出プロセスの「証拠」を保管する
万が一の調査に備え、以下の記録をセットで保管しておきます。
- 選出を告知した掲示物のコピー(またはメールの文面)
- 信任の結果(「〇月〇日、全従業員〇名中〇名の賛成により選出」といったメモ)
- 投票結果の集計表など
もう少し詳しく知りたい方はコチラの記事もご覧ください。

よくある勘違い・注意点
「異議なし」を放置するのは危険
「反対意見がなかったので決まりました」という運用は、積極的に賛成を得たとはみなされない可能性があります。全員にメールを送り、「賛成の方は返信してください(またはリアクションしてください)」といった能動的なアクションを記録に残しましょう。
パート・アルバイトも含めた「全従業員」の過半数が必要
正社員だけで選んでいませんか?労働者代表は、パートやアルバイト、契約社員も含めた「全従業員」の過半数を代表していなければなりません。
会社が代表者のハンコを用意するのはNG
「手続きをスムーズにするため」と会社が代表者の印鑑を作成・保管しているケースがありますが、これは「会社による支配介入」とみなされ、代表者の独立性を疑われる原因になります。
まとめ
- 選出方法を間違えると36協定は無効になり、残業が一切させられなくなる。
- 「管理監督者でないこと」と「民主的な手続き」が絶対条件。
- 「36協定のため」という目的を明示して、全従業員から信任を得る。
- 調査に備えて、選出手続きのプロセス(証拠)を必ず記録に残す。
労務の結論メモ:貴社の労働者代表、最後にどうやって選ばれたか説明できますか?「なんとなく」で済ませていると、大きな経営リスクに繋がりかねません。まずは現状を確認してみましょう。


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