「トーコロ事件」は、実務担当者や経営者が絶対に知っておくべき「36協定の落とし穴」を教えてくれる非常に重要な判例です。
この事件を一言でいうと、「36協定の相手選びを適当にしていたせいで、会社の残業命令がすべて無効になった」というお話です。シンプルに、かつ実務の急所を押さえて解説します。
【実務解説】トーコロ事件とは?36協定のミスが「解雇無効」を招く恐怖
「36協定は出しているから、残業命令は有効だ」 そう信じている社長や総務担当者は多いですが、実はその「相手」を間違えると、会社の命令権は砂の城のように崩れ去ります。
今回は、実務で最も有名な判例の一つ「トーコロ事件」を例に、なぜ手続きのミスが致命的なリスクになるのかを解説します。
疑問:残業拒否をした社員を「クビ」にできるのか?
この事件は、ある社員が会社の残業命令を断ったことから始まりました。
- 会社: 「忙しいから残業してくれ」と命令
- 社員: 「目が疲れている(眼精疲労)から無理です」と拒否
- 会社: 「業務命令違反だ!協調性がない!」として解雇
会社側は「36協定も結んでいるし、正当な命令だ」と考えて解雇に踏み切りましたが、裁判の結果、とんでもない事実が判明します。
結論:36協定が「無効」なら、残業命令も「無効」になる
結論から申し上げます。
裁判所は、「この会社の36協定は無効である」と判断しました。その結果、残業命令そのものが「従わなくてよい違法な命令」となり、それを理由にした解雇もすべて無効(負け)となりました。
根拠:なぜ「36協定が無効」だと判断されたのか?
最大の理由は、「36協定を結んだ相手(労働者代表)」が適切ではなかったからです。
1. 相手が「親睦会の代表」だった
会社は、社内のレクリエーションなどを行う「親睦会」の代表と36協定を結んでいました。しかし、裁判所はこれを認めませんでした。
- 理由: 親睦会の代表は「飲み会や旅行のため」に選ばれた人であり、「36協定を結ぶため」に従業員から選ばれた人ではないから。
2. 「過半数代表者」のルールを守っていなかった
労働基準法では、代表者を選ぶときに「今から36協定を結ぶために、この人を代表にします」という目的を伝え、民主的な手続き(投票や挙手)で選ぶ必要があります。このプロセスがなかったため、代表者としての資格がないと判断されました。
実務ではどうするか:残業命令の「有効性」を守るステップ
社長や総務担当者が、トーコロ事件のような悲劇を避けるための実務ポイントは3つです。
1. 「親睦会の会長」に自動的に頼るのをやめる
親睦会の会長にお願いすること自体はダメではありませんが、必ず「36協定の代表者として信任するか」という手続き(メールでの賛成確認や掲示板での信任投票)を別途行い、記録に残してください。
2. 選出の「目的」をハッキリ伝える
「今回の36協定を締結するための代表者を選びます」と周知することが必須です。目的を告げずに取ったサインやハンコは、裁判になれば無効になります。
3. 管理職(役職者)を代表にしない
部長や課長など、経営側の人間と36協定を結んでも無効です。必ず「一般社員」から選出してください。

よくある勘違い・注意点
「残業代を払っている」は免罪符にならない
残業代を1分単位で正しく払っていても、36協定が正しくなければ、1分でも残業させた時点で労働基準法違反(刑事罰の対象)になります。

トラブルが起きた時に「足元」をすくわれる
普段は問題なくても、解雇や懲戒などで従業員と揉めた際、弁護士は必ず「36協定の有効性」をチェックします。ここでミスがあると、会社側は実質的な議論(本人の能力不足など)に入る前に、形式上の不備で負けてしまいます。
まとめ
- 36協定がちゃんとした相手と結ばれていないと、残業命令は無効。
- 「親睦会の会長」にハンコをもらうだけの手続きは、判例上もっとも危険。
- 残業命令に従わなくてもOKになり、それを理由にした解雇も無効になる。
- 「36協定をミスると、会社の命令系統は全部崩れる」と心得ること。
労務の結論メモ 貴社の36協定、最後に代表者を選んだ際のエビデンス(証拠)は残っていますか?「昔からこうやっているから」という慣習が、実は最大の経営リスクかもしれません。


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