「外回りが多いから、時間は本人に任せている」
「残業時間は自己申告でExcelに入力させている」
中小企業の現場では、こうした「自己申告制」の勤怠管理が今でも多く見られます。しかし、厚生労働省のガイドラインでは、自己申告制はあくまで「客観的な把握が困難な場合の例外」という扱いです。
ルールを知らずに運用していると、後に数年分の未払い残業代請求に発展するリスクもあります。今回の「労務の結論メモ」では、自己申告制を適正に運用するための鉄則を整理します。
よくある疑問:本人の申告だけで労働時間を決めてもいいのか?
「本人が『今日は残業なし』と書いているのだから、会社に責任はないはずだ」と考えがちですが、これは非常に危険な考え方です。 もし実態としてサービス残業が行われていた場合、会社が「本人の自己申告だから」と主張しても、法的には「管理を怠った」とみなされる可能性が高いからです。
結論からシンプルにまとめます。
結論:自己申告制を維持するなら「実態との乖離確認」が不可欠です
自己申告制による管理そのものは禁止されていませんが、会社には「申告された時間が正しいかどうかを確認する義務」があります。
本人の申告を鵜呑みにせず、パソコンのログや入退館記録などの「客観的な事実」と照らし合わせ、ズレがある場合は会社が調査・修正を行わなければなりません。
根拠:ガイドラインが定める「講ずべき措置」
厚生労働省のガイドラインでは、自己申告制を採用する場合、会社は以下の措置を講じる必要があると定めています。
- 適正な申告の阻害要因を排除すること: 残業代を減らすために過少申告を強いたり、周囲が「残業をつけるな」という雰囲気を作ったりしてはいけません。
- 実態調査の実施: 自己申告された労働時間と、実際の在社時間に乖離がある場合、実態調査を行い、労働時間を補正しなければなりません。
- 申告方法の周知: 正しく申告する方法や、残業が必要な際の手続きを明確に周知しなければなりません。
実務ではどうするか:自己申告制を適正に運用する3ステップ
現場でトラブルを防ぐためには、以下の手順で運用を徹底してください。
① 残業を「許可制・承認制」にする
「勝手に残って、勝手に申告する」状態をなくします。残業が必要な場合は事前に申請させ、上司が承認した時間のみを労働時間として認めるルールを徹底します。
② 客観的な記録(バックデータ)を保存する
「自己申告だから記録はいらない」ではなく、以下のデータを必ず保存しておきましょう。
- パソコンのログイン・ログアウト履歴
- メールの送受信履歴
- 入退館、セキュリティーカードの記録
- 業務日報
③ 月に一度、申告内容と記録を照合する
本人が申告した終業時刻が18時なのに、パソコンのログが20時まで動いているような場合、その2時間の差について「なぜ残っていたのか」を確認します。もし仕事なら労働時間を修正し、私用ならその旨を記録に残します。
よくある勘違い・注意点
「上限設定」による申告抑制
「残業代は月20時間分しか出さないから、20時間以内で申告しろ」といった指示は、最も典型的な法令違反です。これをやると、後に労働者から訴えられた際、会社側の管理責任が厳しく問われ、多額の付加金を課される恐れがあります。
休憩時間の自己申告
「休憩も1時間取ったことにして申告して」と指示するケースも多いですが、これもNGです。休憩は「労働から完全に解放されている」必要があります。電話番をしながらの休憩は、法的には労働時間とみなされます。
創業以来の慣習だから大丈夫
「うちはずっとこのやり方で、社員からも不満は出ていない」という主張は、法的根拠にはなりません。一人の退職者が監督署へ駆け込むだけで、過去数年分にわたる全社員の再調査を命じられるリスクがあることを忘れてはいけません。
まとめ
- 自己申告制はあくまで例外。会社には確認義務がある。
- パソコンのログ等と照らし合わせ、大きなズレがないか定期チェックが必須。
- 「残業は月〇時間まで」といった申告の抑制は絶対NG。
- 実務上は、自己申告よりも「スマホGPSやPCログによる客観的打刻」への移行が安全。
自己申告制は、管理する側にとって「楽な方法」ではなく、むしろ「最も手間とリスクがかかる方法」です。もし現状の運用に不安がある場合は、早めに客観的な打刻システムの導入を検討することをお勧めします。


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