※本記事は、事業主・人事担当者向けに、法令ベースで整理しています。
「残業代(割増賃金)の計算方法が合っているか不安」
「基本給だけで計算しているが、手当も入れるべきなのか判断できない」
「深夜残業や休日出勤が重なった場合、割増率は足し算でいいのか?」
割増賃金の計算は、やり方を一つ間違えるだけで、
未払い残業として労働基準監督署の是正対象になりやすい分野です。
特に、計算の基礎となる「時給単価」の設定ミスは、遡及支払い額が大きくなりがちです。
結論から言うと、
残業代(割増賃金)は「正しい1時間あたりの賃金 × 残業時間 × 割増率」で計算します。
ポイントは、「時給単価に含める賃金」と「割増率の重なり方」を正確に理解することです。
この記事では、給与計算の実務で最もミスが多い
割増賃金の計算方法を、労働基準法のルールに沿ってシンプルに整理します。
結論:残業代は「正しい時給単価 × 割増率」で計算します
残業代の計算は、「1時間あたりの賃金」を正確に出すことから始まります。基本給だけでなく、法律で除外が認められていない手当はすべて計算に含める必要があります。
これに、時間外(1.25倍)や深夜(0.25倍)などの「割増率」を掛け合わせたものが、法的に正しい残業代です。
根拠:計算から外せる手当・外せない手当
1時間あたりの単価を出す際、原則としてすべての賃金を合算しますが、労働基準法(第37条)により「計算から外していい手当」は以下の7つに限定されています。
現場では、覚えやすいようにそれぞれの頭文字をとって「かつうべっしじゅうりーち」と呼ぶこともあります。
- か:家族手当
- つう:通勤手当
- べっ:別居手当
- し:子女教育手当
- じゅう:住宅手当
- りー:臨時に支払われた賃金(結婚祝金など)
- ち:1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
※注意: 逆に言えば、これら以外の「役職手当」「資格手当」「職務手当」「精勤手当」などは、すべて計算に含めなければなりません。もし「基本給だけで計算している」としたら、それは未払い残業が発生している可能性が極めて高い状態です。
割増賃金の計算方法|割増率の基本ルール
割増賃金の割増率は、次のように定められています。
• 時間外労働(法定外残業):1.25倍
(1日8時間・週40時間を超えた場合)
• 深夜労働:+0.25倍
(22時〜翌5時)
• 法定休日労働:1.35倍
(週1日または4週4日の法定休日)
たとえば、
• 深夜に時間外労働 → 1.25+0.25=1.5倍
• 法定休日の深夜労働 → 1.35+0.25=1.6倍
と考えます。
【実務ポイント】割増賃金は「3区分」で考えるとミスが減る
理論上は「深夜残業」「休日深夜」などと区分できますが、
給与計算の実務では、次の3区分で整理する方がシンプルです。
• 普通残業(時間外)
• 深夜
• 休日
たとえば深夜残業(時間外+深夜)があった場合でも、
• 時間外分の 1.25 →「普通残業手当」
• 深夜分の 0.25 →「深夜手当」
というように、支給項目を分けて計算します。
この方法にすると、
• 割増率の重複ミスを防げる
• 給与ソフトに設定しやすい
• 労基署への説明がしやすい
というメリットがあります。
※法律上必須ではありませんが、
実務では多くの会社が採用している考え方です。
計算例:月給30万円の場合の残業代はいくら?
※以下の計算例は、就業規則に定めた所定労働時間を160時間とした場合の一例です。
【計算例①:すべて基礎単価に含める場合】
基本給:25万円
役職手当:3万円
資格手当:2万円
合計(月給):30万円
30万円 ÷ 160時間 = 時給単価 1,875円
平日に2時間残業した場合:
1,875円 × 1.25 × 2時間 = 4,688円
【計算例②:家族手当を除外する場合】
基本給:24万円
役職手当:3万円
資格手当:2万円
家族手当:1万円(割増賃金の基礎単価に含めない)
割増賃金の基礎となる賃金:29万円
29万円 ÷ 160時間 = 時給単価 1,812.5円
平日に2時間残業した場合:
1,812.5円 × 1.25 × 2時間 = 4,531.25円
(※端数処理は会社のルールによる)
【計算例③:深夜残業があった場合】
※計算例①と同じ条件(時給単価1,875円)とします。
平日に22時以降、2時間残業した場合(深夜残業):
• 時間外労働分:1.25
• 深夜労働分:0.25
実務では、次のように分けて計算します。
普通残業手当(時間外分)
1,875円 × 1.25 × 2時間 = 4,688円
深夜手当(深夜分)
1,875円 × 0.25 × 2時間 = 938円
合計支給額:5,626円
※「1.5倍でまとめて計算」した場合と、支給項目を分けて計算した場合で、
端数処理のタイミングによって数円の差が生じることがあります。
いずれも労働基準法上は問題ありませんが、実務では支給項目を分けた方が、
給与計算・明細管理・労基署対応の面で扱いやすくなります。
※端数処理について
割増賃金の端数は、
・支給項目ごとに処理する
・月合計でまとめて処理する
いずれも認められていますが、社内でルールを統一する必要があります。
本記事では「支給項目ごとに処理する」例を示しています。
【計算例④:法定休日に出勤した場合】
※計算例①と同じ条件(時給単価1,875円)とします。
法定休日に8時間勤務した場合:
休日労働手当
1,875円 × 1.35 × 8時間 = 20,250円
※「法定休日」であることが前提です。
所定休日(会社カレンダー上の休日)とは割増率が異なる点に注意してください。
【計算例⑤:法定休日 × 深夜労働の場合】
法定休日の22時〜翌5時の間に4時間勤務した場合:
割増率は
• 休日労働:1.35
• 深夜労働:0.25
実務では次のように分けます。
休日労働手当
1,875円 × 1.35 × 4時間 = 10,125円
深夜手当
1,875円 × 0.25 × 4時間 = 1,875円
合計支給額:12,000円
よくある勘違い・注意点
「月給÷所定労働時間」の計算ミス
1時間あたりの単価を出す際の分母は、「その月のカレンダーの日数」ではなく、就業規則等で定めた「1年間における1か月平均の所定労働時間」を使います。月によって分母を変える運用は一般的ではありません。
端数処理のルール
1か月における残業時間の合計に1時間未満の端数がある場合、「30分未満を切り捨て、30分以上を1時間に切り上げる」処理は認められますが、「毎日15分未満を切り捨てる」といった日単位の切り捨ては違法です。
固定残業代(みなし残業)の注意
「固定残業代を払っているから計算不要」ではありません。実際の残業代が固定残業代を超えた場合は、その差額を支払う義務があります。また、計算の基礎となる単価が最低賃金を下回っていないかのチェックも必須です。

まとめ(実務の結論メモ)
- 残業代 = 1時間あたりの単価 × 残業時間 × 割増率。
- 計算の基礎から外せるのは「家族・通勤・住宅手当」など特定の7項目のみ。
- 役職手当や資格手当を外して計算するのはNG。
- 深夜残業は1.5倍、休日深夜は1.6倍など、重複した割増が必要。
- 日単位の端数切り捨ては不可。1分単位の集計が原則。
労務の結論メモ 給与ソフトの設定が「基本給のみ」になっていませんか?手当を新設した際に設定を漏らしてしまうのは、実務で非常によくあるミスです。一度、自社の「残業単価の算出式」を棚卸ししてみることをお勧めします。


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